姉さん事件です

台風一過。ねずみ色の雲が空を覆い薄暗い昼下がり。寝起きでボーっとする頭でパソコンの前に座っていると、穏やかな時間が流れる部屋にその空気を一刀両断に切り裂く轟音が鳴り響く。

「ガン、ガン、ガァン」「バリィィイン、バリイィィン」「ギャイン、ギュワン、グァァン」「ギャリィィン、ギュアィィイン」

明らかに何かでガラスを割っている音だ。外を見てみるとどうやら庭が繋がっているすぐ隣の家から音がするようだった。恐る恐る窓ガラスから隣を除くと、いかにも「おばあちゃん」といった紫色のサイケデリックな柄のワンピースを着た小さいおばあちゃんが般若のような形相で立っているのがチラッと見えた。

こういう時は警察に電話したほうがいいのだろうか。泥棒ヒゲを蓄え、黒いサングラスをかけて、緑の唐草模様の風呂敷を背負うようなコント泥棒な出で立ちならすぐにでも110番するところだが、いかんせんおばあちゃん。住宅リフォームとかだったら恥ずかしいし、家族の喧嘩とかならあんまり介入しないほうがいいだろうし。なんていう考えが頭の中でグルグルと回る。

利己的な僕は自分に被害がかかるのを恐れ、隣人に何か気に障ることでもしたのか、と自分の行動を思い返した。夜な夜なやっているニンテンドーDSのピコピコ音がうるさかったのか。英語漬けの英語の音声が気持ち悪いのか。たまに歪みに歪ませたギターを爆音で弾いてるのがいけなかったのか。よく聴くラジオの下ネタが酷すぎたのか。庭に雑草が生えすぎで手入れしろってことなのか。そんな怠惰な俺が悪いのか。そもそも俺が生まれたいけなかったのか。

結局決定的な答えを見つけられないまま時が過ぎていった。しばらくすると女性の激しい声が聞こえてきた。内容は分からなかったが、明らかに興奮しているような声色だ。再び外を除くと、誰が呼んだのか分からないが案の定警察官の姿が見えた。もう出発の時間だったので家の前に停めてあったパトカーを横目に不安を抱えたまま学校へ向かった。

家に帰ってから聞いたのだが、

ガラス割るのはダメ、ゼッタイ。ガラス割り、かっこわるい。