喫茶ブラジル

小さい頃、よく中耳炎になっていたので、定期的に耳鼻科に通っていたのだ。

 

自宅から車で20分くらいの場所にある前田耳鼻科、という病院へ、

毎週のように行っていた。

近所にも鈴木耳鼻科という、全国に1000箇所はありそうな名前の病院があったけど、そこはどうやら評判が悪いようだった。

 

前田耳鼻科は前田先生という女医さんの個人病院で、

男性は見たことがなく、女性のみで運営していて、

ワンピースでいうところの九蛇海賊団のような病院だった。

余談だけど、ここの病院は先生含めスタッフの仲がとても良く、

スタッフ全員でテニスをしていたところを見たことがある。

 

ここは本当に人気の病院で、診察までの待ち時間が長かった。

子供だから体感時間が長いだけなのかもしれないけど、

本当に長かった。

 

退屈を持て余していた僕は、ゲームウォッチ(死語)やゲームボーイ(これまた死語)で時間を潰していたものだった。

そして、大きめの音を出して騒いではおばちゃん看護師さんに怒られたものだった。

 

とんでもなく待ち時間が長い日は、道を挟んで向かい側にある「喫茶ブラジル」という古びた喫茶店へよく連れて行ったもらった。

 

マスターは50代くらいの夫婦。

旦那さんは細身で、坊主で、ひょろっとした体型。ウエイターをやってる。

奥さんはキッチンで、ほとんど見えないけど、大阪のおばちゃん的な雰囲気。

 

なんの変哲もない、寂れた(失礼)喫茶店だったのだが、

不思議に思っていたことがが一つあった。

 

そこには、ブラジル的な要素が一つもないのだ。

ブラジルと名前をつけているくらいだから、

ブラジル料理があると思いきや、一つもない。

おすすめはクリームソーダだ。

 

BGMはない。

サンバの音楽の一つもかかっていない。

車が通りすぎる音がBGMだ。

 

マスターがブラジル出身かと思いきや、

日本語ペラペラで、純和風の顔立ちをしていてそれもなさそう。

 

真相は謎のままだった。

時は流れ、2022年。

 

喫茶ブラジルはもうなくなっていた。

謎に永遠に謎となってしまった。