街の灯とイルミネーション

通い慣れた図書館を出ると外はすっかり暗くなり、ピンと張り詰めた空気が街を包んでいる。辺りには街の灯とイルミネーションが煌々と灯り、それに照らされた人々は肩をすぼめながら足早に道を歩いてる。どうやら知らない間に冬が訪れてしまったみたいだ。ああ、マジで寒い。

こんな寒い日はパーカーを着るに限る。手持ち無沙汰になりやすい僕は常にポケットに手を突っ込み、あまり人込みが好きではない僕は社会と遮断するようにフードを被る。どっちも暖かいときたから、言うことはない。パーカーを着だしたのはそもそもアメリカ西海岸のパンクが好きで彼らのスケーターファッションに憧れたのが始まりなのだが、とにかく、僕のパーカー好きは相当に根強い。

駐車場までの帰り道を、スケーター気取りで、いつもより少しだけゆっくり歩いてみた。関西弁のスチュワーデスたちの列の間を図々しく割って横断歩道の前に立つと、どこからか軽快な音楽が聞こえる。手拍子とギターと歌声が冷たい空気を切り裂いて僕の耳へ飛び込んできた。なぜだか分からないけれど、ほっとする。今季一番であろう寒さでも週末の街は相変わらず賑わいを見せているみたいだ。

この街には深い思い出はないけれど何かと想い入れがある。図書館は毎週のように通っているし、買い物にもよく来る。新しいバイト先もこの街にある。今好きな女性はこの街に住んでいたり、昔好きだった女性はこの街で結婚生活を送っていたり、妙な縁があるのだろうか。単に便利が良く、住んでいるのも偶然といってしまえばそれまでだけれど、目に見えない何かは信じたい方なのだ。

図書館の温室で暖まっていた体もさすがに冷えてきて、僕も周りの人々と同じように足早になっていく。こんな寒い日は暖かい飲みものを飲んで体の芯から暖まるに限る。駐車場の下の自動販売機の前で僕は延々と悩んだ。コーンポタージュにしようか。お茶にしようか。あえて紅茶にしようか。散々迷ったけれど、コーヒーにした。帰路で思い出した思い出を胸に車のエンジンをかける。コーヒーは熱く、ちょっぴり甘く、ほろ苦い。