拝啓、Tくん

小学校の同級生にTくんという男の子がいた。

 

やや小太りで、目がぱっちり。角刈りで、ジェラードンのアタック西本のような風貌だった。ズボンのゴムが緩いのか、1メートルくらい歩くたびに、ズボンがずり落ちては、ズボンの後ろのゴムを引き上げている姿を、鮮明に覚えている。

 

Tくんは運動も勉強も苦手だった。鈍臭いけど、愛嬌のあるやつだったので、いじられキャラだった。みんなでTくんをいじっては、本人も笑顔でリアクションを返してくれるので、そんなやりとりを自分もよくしていた。

 

Tくんとは特別仲がよかったわけではないが、家が比較的近かったこともあってたまに近所で遊んでいた。ある日、Tくんと外で「ドロケイ(=泥棒と警察に別れて遊ぶ鬼ごっこのようなゲーム)」をしていた。運動が苦手なTくんはすぐに捕まってしまっていた。その時はいじめっ子気質の上級生も一緒に遊んでいて、やがてTくんはターゲットにされてしまった。すぐに捕まってしまうものだから、最後には罰ゲームで「お尻文字」を書かされることになってしまった。お尻文字とは、お尻でお題の文字を書く、いわゆる恥を与える系の罰ゲームだ。その時の彼は、笑顔だった。

 

時は流れて、中学生。中学校は3つの小学校が集まる、大きい学校だった。Tくんとは別々のクラスで、部活も始まったこともあり遊ぶ機会もめっきりなくなってしまった。

 

中学1年の冬頃。

同じ小学校の同級生が、

「おい、Tくんが不登校になったらしいぞ」

とぼそっと教えてくれた。

 

話を聴くと、どうやら他の小学校出身のヤンキー気質な女の子にいじめられたことがきっかけらしい。どんないじめがあったかは忘れたけど、かなり酷いいじめだったのだと思う(ちなみに、自分もその女の子に、ほぼ喋ったことないのに、いきなり後ろから体育ズボンを下ろされ白のブリーフを丸見えにされたことがある)。

 

Tくんが不登校になったこと事実を聞いたとき、「そうなんだ」としか思わかなかった。今思えば薄情だけど、人付き合いが得意な方ではなかったので、自分のことで精一杯だったのかもしれない。とにかく、その事実を聞き流していた。

 

あれから30年。全国の学校で起きたいじめのニュースがたまに流れてくる。旭川のイジメは、殺人と言っていいほど酷いもので、全くの他人である自分でも加害者が憎くなるくらいのものだ。そんないじめのニュースを見るたびに、Tくんのことを思い出す。

 

同じ小学校の同級生に、漫画に出てくるような絶対悪の「いじめっ子」はいなかったし、小学生時代はあからさまないじめはなかった。でも、もしかしたらそれに近しいことはしてしまっていたのかもしれない、と今になっては思うのだ。自分もいじめに加担してしまっていたかもしれないという事実。ずっと心の奥底にある。死ぬまできっと消えない。

 

今自分にできることは、目にみえる周りの人を、誰も一人にしないこと。それが自分の好きなパンクの精神であり、ソーシャルワーカーの生き方であり、Tくんへの自分の中の贖罪でもある。

 

Tくんは元気だろうか。今何をしているのだろうか。どんな人生を歩んでいるのだろうか。どうか幸せに生きていてほしい。