午後11時の吉野家にて

今日の夕食は久しぶりに牛丼でも食べようと吉野家へ行くことにした。
店内にはくたびれたサラリーマンと暇そうな若者。予想どおりの気怠い空気感。
空いていたので入口から一番近い4人掛けの席に座る。



席について間髪入れず「チュウモンナニニシマスカ?」と店員が注文を取りに来た。
カタコトだったので、ああ外国人か、と思った僕は少しはっきりした口調で「牛丼大盛り、生野菜セット」「つゆだくで」と伝えた。
チュモンクリカエシマス。ギュウドンオモリ、ヤサイセット、ツユダク、デスネ」「はい」
そんなやり取りをした後ふと名札を見ると「井上」と書いてあった。
日本人かい!と、心の中で突っ込む。



注文後1分たらずで牛丼が出てきた。久々にしては大した感動もなく、まあこんな味かなあ、
なんて思いながら食べていると店内のBGMが気になり始めた。
最新のヒット曲ではなく90年代にヒットしたであろう曲のみが延々と流れているのだ。
ははー井上の趣味だな、と思った僕は彼を同世代のアラサーと勝手に決めつけた。
バンドをやっているが鳴かず飛ばずで昼はバンド、夜は吉野家でバイトの生活。
いつかミスチルと肩を並べる日を信じて今日も牛丼を作っている。



そんな事を妄想していると店内には安室奈美恵の「Chace the chance」が流れ始めた。


「Just Chase the Chance 信じてる道は
Chase, Chase the Chance まっすぐに生きよう
夢なんて見るモンじゃない
語るモンじゃない
叶えるものだから」


きっとこれは彼なりのメッセージソングだ。歌詞が今の彼の姿と重なって牛丼に涙が零れ落ちた。
無事牛丼サラダセットを完食し、伝票をレジの井上へ差し出す。
「690円デス」
やっぱりカタコトだった。ていうか高いな。吉野家


(一部フィクション)