プレステージ(ビリーブ・ザ・トゥルース)

ryoma200x2007-06-30

「タクシーで大阪まで行ってみようぜ」「それチョーおもしろいんだけどー」「マジィ?」と軽薄なノリで話すギャル男とギャル女が本当にタクシーを止めたほんの5分前、僕は陽気な音楽を聞いていた。チバユースケのガナリ声の汚い部分だけを凝縮したような声で歌われるラモーンズの「ロックンロール・レディオ」が、3分間だけ、夕焼けに染まる名古屋の街に響きわたる。「原型がないけどパンクはこうじゃないと」なんて音楽雑誌の編集者のごとく偉そうに批評しながら大賑わいの街を歩く。

その2時間後、「あいつ無視っていいかなぁ」「デブで、マジキモイし」「いいところが見つからないよね」と電車の中で恥ずかしげもなく悪口を垂れる女性の横で「夏の庭」を読むわずか30分前、僕は女性と映画を見ていた。「プレステージ」という二人のマジシャンが騙しあうというサスペンス映画だ。久々に見るサスペンス映画はその女性がたった2時間前に初めて会った人という真実を忘れさせるには十分だった。

夕日が差し込むオアシスの下で彼女と出会った瞬間、1秒で相手を見極めた気になっている僕がそこにいた。相手のことは何も知らないのに。何も分かってはいないのに。マジックは3つのパートから成り立つらしい。1番目は「確認」、2番目は「展開」、3番目は「プレステージ(偉業)」だ。僕の「マジック」には「確認」が欠如しているようだ。だから失敗ばかりするのかもしれない。

でもこれは真実だ。どんなマジックでも真実はたった一つだけのように、それは受け入れなければならない。子供のような能書きをばかりしている僕が「プレステージ(幸福)」に立つ日はまだ遠い。辺りはもう真っ暗だ。本音という真実が悪意の渦を描くこの街で僕は果てしなく長く厳しい道のりを感じた。

♪BGM ブレーメン/くるり