悪い人の夢〜初恋〜

夢見ました。悪僕の夢に初恋の人が出てきました。

近所の商店街を歩く僕。普段は寂れた商店街で人も疎らなのだが、この日はなぜか都会の中心部のような賑わいで、四方八方から人の波が押し寄せる。何のためにそこへ行ったのかは、覚えていないくらいなのできっとくだらない理由だったのだろう。

激しい人波の横で、ひっそりと一人の小さな子供が泣いていた。きっと4、5歳の男の子だろう。僕は、一人だったということもあって、その子の方へ近づいてそっと、頭をポンポンと軽く叩いた。きっと迷子だ。そう考えた僕は一緒に母親を探して歩くことにした。一回りも二回りも小さい手を優しく握りしめ、店を回りながら練り歩く。言葉はない。子供とどうせっしていいか分からないのだ。何軒か回った後にぱっと後ろを振り返るといつのまにか男の子は消えていた。手に温もりだけ残して。

必死に波を掻き分け、海の中の真珠を探し出すような途方もない気分で男の子を捜しながら歩いていると、赤いワンピースを着たと一人の女の人と目が合った。ドキッ、とした。「間違いない、初恋の人だ」。記憶が思い出されるよりも早く体はそのことを理解していたようで、全身が硬直するのを感じた。でも、僕が大人になったからなのだろうか、不思議と恥ずかしい感じはなかった。

彼女のことは小学4年から中学卒業までずっと好きだった。家が近く、部活も同じだったということもありはよく一緒に帰ったっけ。(手前味噌だが)向こうも好きになってくれて中学一年の時はお互い告白もした。当時付き合うという感情はこれっぽっちも無かったし、もし仮にあっても僕に甲斐性があるわけはないので、自然消滅は必然だった。僕が思春期に入って病んでいくのと同時に疎遠になっていき、高校ではなればなれになってからはずっと会っていない。

そんな彼女は顔こそ当時のままだが、ずいぶんと落ち着き、大人の雰囲気を漂わせていた。一緒に商店街を歩きながら、十数年ぶりに、話しをした。何を話したかは覚えていない。でも限りなく自然体でいられたのははっきり覚えている。小学校が見渡せる少し高台の所に座り、ゆっくり話すことにした。この感情は経験したことは無いが、これが「幸せ」という感情なのかもしれない。

しかしそんな楽しい時間が経つにつれさっきの男の子が気になってきた。どこへいったのだろうか。大丈夫だっただろうか。考える間もなく、「ゴメン」、と一言彼女に伝え、再び商店街の方へ駆け出した。彼女にいい所を見せたいというただの格好付けなのかもしれない。なんかあったら自分の責任だという自己防衛なのかもしれない。それでも、全速力で、店という店を探して回った。

結局男の子は見つからなかった。ついでに言うと、彼女のところにも戻っていない。一連の再会をどこで見たのか、恋敵からの嫌がらせ電話も別に大して気に留めなかったが、また、何にもしてあげられかったという後悔の念だけが押し寄せてきた。しかし、昔と違いその後悔をグッと飲み込んだ僕は少しだけ大人になった気がした。

気が付けば、もう10時。鳥が陽気に歌う声が聞こえる。梅雨入りしたはずなのに、青々としたなんといい天気だ。