サタデイ・イン・ザ・パークライフ

土曜日の正午。縁側を仕切っただけの僕の部屋に初夏の強い日差しが「早く起きろ」と言わんばかりに差し込む。フライデーナイトの昨夜は深夜までファミレスで友達とワイワイしゃべって布団に入ったのが3時半くらいだったので起床時間としてはちょうどいい。もちろん睡眠時間は同じでも、早朝に起きるようなあの爽やかさは全く、ない。

誰かに無理やり叩き起こされるのに匹敵するくらい、暑くて起きるのは心地が悪い。パジャマというものが女々しくて嫌いなので、真夏以外ほとんど一年間上はTシャツにパーカー、下はジャージを着て寝るのだが、梅雨前線がじわじわ迫ってくるこの季節ではさすがに暑い。低血圧の僕は暑さでさらに頭をボーっとさせ、リヴィングゾンビのごとくふらふらと台所へ顔を洗いに行く。

部屋に戻るなり、おばあちゃんの部屋から借りている座椅子に崩れるように座り込んだ。畳んだ僕の布団の上にはいつのまにか愛犬がその大きな体で横たわり、正午過ぎだというのに寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。全ての機能が停止している僕は、その光景に平和だなあとか幸せだなあと感じることもなく、ただ淡々と機能立ち上げ(ローディング)に集中する。

ようやく電源が入ってきた僕は昨日ビレバンで買った小説「パークライフ」を詠むことにした。寝起きはなぜか一番集中力があるので勉強か読書をすると決めているのだ。ケータイの半分くらいの厚みの本で昨夜寝る前に少し読んでいたこともあって、あっという間に読み終わってしまった。

なかなかの良本で余韻に浸っていると、ブー、ブー、ブーとケータイのバイブ音がかすかに聞こえてきた。音が小さいので布団の中だろう、とさっきまでがうそのように頭を早く回転させる。我ながらジャイロ・ツェッペリの鉄球の回転のような鋭さだ。愛犬を起こさないように大雑把に畳んである布団をそっとめくり上げケータイを手に取ると、見計らったかのように振動が止まった。

昨日しゃべっていた友達の一人からだ。話の流れなどから、すぐに遊びの誘いだろうと判断した。元来出不精な僕は「寝起き」や「夜中」などに誘われただけで行く気が失せるのだが、昨夜ワイワイした分今日は一人でいたいという気持ちが強く、どうも乗り気にはなれなかった。「パークライフ」の言葉を借りれば、「周りの人とうまくやっていきたいからこそ、土日くらいは誰とも会わず、誰とも言葉を交わさずにいたい」、のだ。

どう断ろうかをあれこれ考えていると二回目の電話が掛かってきた。今度は目の前にケータイがあったので、早く出ろ早く出ろ、と強い振動が机を伝って僕に押し寄せる。渋々出ると、なんのことはない、掘り出し物のCDを見つけたので買っておこうか、という至の電話だった。

寝起きだ、という中途半端な嘘をつき誘いを必死に断ろうとしていた自分が馬鹿らしく情けなく思えた。友達に嘘をつくなんて最低だ、だから友達できないんだよという自己否定の悪魔と、しょうがないよ、行きたくないものはさ、という自己弁護の天使が心の法廷で争い始める。この場合、大抵悪魔が勝つであろうというのは24年も生きていれば予想が付くことなのだが。

昔であれば悪魔に染まった僕は自己嫌悪の沼にどこまでも沈んでいくところだが、悪の闘気を光の闘気で飲み込んで強くなったヒュンケルのように、最近はそれをポジティブなエネルギーに変える術が分かってきたつもりだ。胸に手を当てて考えてみると、やっぱり人間は公明正大、隠すものはなにもないことを隠していては駄目なのだ、とネガティブシンキングに飲まれることなく思うことができたのはそれのお陰だろう。いや、それとも初夏の陽気のおかげなのだろうか。

とにかく、一連の出来事を反省しつつ土曜日を始めようと思う。よし。・・・・僕は、決めた。「何かが常に始まろうとしているが、まだ何も始まっていない」僕はとりあえずご飯を食べよう。

♪BGM Parklife/Blur