ブックオフ・クオリティに魅せられて

「ウィーン」

不気味に黄色く光るネオンの下の自動ドアが開き薄暗い店内に入ると、まだ学生であろう垢抜けない店員が少し無理しているように大声で、「いらっしゃいませ、こんにちわ!」と叫ぶ声が聞こえる。すると、待っていたかのようにやたらと地味な店員たちが一斉にやまびこのように繰り返す。

いつものように清水「ヘビーユーザー国昭が、店内放送で宣伝が聞こえてくる。まるで呪術のようなその軽快な語り口が、また彼自身が歌う昭和の歌謡曲のようなキャッチーなBGMに乗って、どこかどんよりした店内に虚しく響き渡る。その痛々しい雰囲気に、「貴方が掴めよ、自分のペース」と叫びたくなるものの24歳の僕は下唇をグッと噛んで耐えるのだった。

CDコーナーを見て周る、至福のひと時。掘り出し物を見つけては喜び、裏ジャケの曲目の部分が万引き防止のフレームで隠れて見えなくてイライラし、洋楽のコーナーによく紛れているパンク系の邦楽バンドを見て哀しむ、割引券を大量に使って激安価格にする楽しみ・・・・そこには音楽同様喜怒哀楽が溢れている。

もちろんそんな日常茶飯事の出来事以外にも、時にはビート・クルセイダーズのベストがクラッシックのコーナーに堂々と置いてあったり、マリリン・マンソン直筆サイン付の「アンチクライスト・スーパースター」が普通に棚に並んでいることだってある。驚くことも一杯だ。

驚くといったら、なんと言っても「値段」だろう。新譜などは定価とほとんど変わらない強気の値段設定だったり、売る時は逆にボッタクリなほどの安価だったりもする。フィッシュマンズのベストに値段が付けてもらえなかった(0円)ときはさすがに怒るというか虚しくなった。どの店でもお高いレディオヘッドやニルバーナなどの定番の名盤は高いし、逆に750円以下のコーナーもシャンプーやらE−ROTICやら、どこでも大概同じようなメンツだったりもする。

今お金も無いので何にも買わず帰ることにした。レジではお決まりのやり取りが始まっている「会員カードはお持ちですか?」「会員カードお返しいたします」「お会計のほう・・・になります」そんな他愛もないやりとりを横目に、僕は振り返ることなく、素っ気なく出口へ歩いていく。「ありがとうございました」。買ってもいないし、感謝されるようなことをしていない僕にも声を掛けてくれる店員たち。こんな悪いことばかり考えていた僕は心の中で少し反省するのだった。